レッスン録 543
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福島特別レッスン 351018
課題曲レッスン 351212
レッスン録 Q&A
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福島特別レッスン 351018
大切なことは、ことばのイメージ、音声のイメージを感じることです。そのことにどれだけ気づいていくことができるかが、重要です。
声は、トレーニングすれば出てくるようになります。しかし、聞いている人が声にイメージを感じることができなければ伝わりません。ひびきにならず、音楽として使える声ではありません。
そのことに気づくには、頭で考えるまえに、心を無心にすることです。
私は、声についての定義づけはしていません。何かを定義づけるのは、そのときどきのトレーニングに必要なことですが、それにとらわれるとよくありません。
ここ独自のヴォイストレーニングというものがあって、ここで出されている声が正解であり、そのためのノウハウがあるとは、考えないことです。
習得していくノウハウとは、個人個人によって違うものです。私やトレーナーがいったことばだからと、そのままうのみにしないことです。なぜならば、それはその人自身のノウハウに過ぎず、そのままでは、あなたのものとならないからです。
私はいろいろな材料を与えています。そのなかから自分で気づき、感じて、自分に合うものから選んで身につけることです。最初はわからないし、身につきません。身につけるまで、続けることです。わからなくても身につけることが優先されます。
そうすることが、自分で使える自分のノウハウをつくっていくことになるのです。
何かを定義づけてしまうと、それに合わせようとして、そのなかで小さくまとまってしまいます。今からまとめようとせず、スケールを大きく広げていくようにしてください。
感覚、センスを磨くには、一流の作品を聞いて、自分で気づいていくしかありません。
今回は、参考にしてもらうとよい曲を紹介していきます。
ブライアン・アダムスの「オーソレミオ」は、ポビュラーをやっていこうとする人の何か参考になるかもしれません。声よりも表現力に着目してください。
しかし、この曲に彼は合っているとはいえません。
(三大テノールは、パヴァロッティの他に、ドミーゴ、力レーラスか歌っています)。
オペラは、ポピュラーとは無縁だと思われるかもしれませんか、ブレスリーをはじめ、有名なポビュラーヴォーカリストたちは、たくさんのオペラを聞き、学んでいます。オペラに学ベることは、たくさんあります。
ジョルジアという女性のヴォーカリストは、あまり知られていませんが、パワフルな歌い方をしています。
中丸三千繪さんも、声が日本人離れしています。私が聞いても、日本人か外国人か判別できない人は珍しいです。
ここから、レッスンメニューです。
「ある日恋のおわりが」
あるひ こいは おわる(ドレミ ドファ ミドレ)
ことばについている音を一つひとつとっていくのではなく、一つのフレーズで捉えてください。息が先にきて、声があとからついてくる感じです。声をつかんで、息をふきこむという感覚を捉えてください。そういう感覚で捉えないと、うまくひびきに移行しないです。声をにがしでしまったり、声を変えたりしないようにしましょう。
曲のフレーズを与えられたときに大切なのは、それをオリジナルを歌う歌手のようにやることではなく、そこから曲のイメージをつかむことです。自分の潜在意識のなかに、一流のものをしみこませておくのです。
そのまえにどれだけ自分に入っているものがないか、気づくことです。出てこないということは、入っていないことです。だから学ぶのには入れ込むのです。
結局は、体と表現を一致させることです。
計算しているようにみえないことが大切です。フレーズの先をよまれてしまうと緊張感がなくなり、聞いている人は退屈します。計算がみえないくらいの大きなフレーズをつけることを、練習で煮つめてください。
「しょぎょう むじょうの ひびきあり」
ことばでよんでみたあとに、即興でメロディ、リズムをつけてみましょう。初めから頭で考えずに、どんどんつくって量をこなしていきます。理屈から入らないことです。高いレベルで表現しようとすると必ず、声がはずれたりかすれたり、浮いたり、いろいろな問題が生じてきます。そこから、そのことについてどうしたらよいか、考えていけばよいのです。
音程から、とりにいかないようにしましょう。自分の呼吸に声を合わせるようにします。音楽的なことは、考えない方がうまくいきます。何パターンもつくり、グルーヴ感を感じていってください。
耳をもち、表現し、足らぬところをトレーニングしていく、この繰り返しのみが、本当の力をつけるのです。
トレーニングで体を鍛えることと、歌を歌うことは、次元が違うことです。歌を歌うときは、体の使い方もトレーニングで鍛えているときのような使い方ではありません。しぜんに無意識に使われてなくてはなりません。トレーニングで声を出すのは、動作ですが、歌では声も体も、状態です。
体を鍛えるというのは、スポーツでいう基礎卜レーニングの部分にすぎないのです。バットで球をミートする打ちっ放しと同じです。実際の試合のときに同じように打てるわけではないのです。
ヴォイストレーニングとは、自分が声を扱いやすいように、歌うときの声や体を一時、考えずに、自分の表現したいことがストレー卜に声に出しやすいようにするためのものです。
声か出しやすく、体が使いやすくなっていくトレーニングが、まずは、その人にとっての正解だということです。
ですから、トレーニングのメニューは、自分に合うように、自分で考えてつくっていかなければなりません。ノウハウは、レベルが高くなるにつれ、その人だけの正解となっていくのです。
いろいろなメニューを量として、こなすなかで、感覚がつかめてくるはずです。こうすれば声が出るという感覚を、自分で判断して、たぐりよせる作業をしてください。いきなり複雑な歌い回しにいかないことです。
一声がわかってきたら、それがヒン卜で次々と新たな発見が起こるはずです。そのときに状態がいつも同じということはありません。
たとえば、息を吐いたり、胸に共鳴させるということは、胸に押さえこむということではありません。一流のヴォー力リストは、胸に押さえつけて歌を歌っているわけでもなく、そのようなヴォイストレーニングをしているわけではないでしょう。
発せられる声が、聞いていてどのくらい深いかを考えてみてください。感性で判断してみましょう。
低音については、無理に音にしようとしないことです。音にしようとすると、のど声になりやすくなります。口先で声をつくってしまいます。
最初は、声、息とうまくミックスできないでしょう。体できちんと捉えて低音を出そうとすると、最初は声になりずらいものです。低音は、きちんと出そうとすると、大変、難しいからです。
逆に、高音の方が、体と息の強さで出していくことができるので、ある意味では出しやすいといえます。出し方を違えるとうまくひびかないし、声が出なくなっていくので、判断もしやすいでしょう。高音、中間音のトレーニングをしたあとに、低音を整えていくのもよいでしょう。
声を出すときに、のどをはずせということばを使います。それは、のどに振動がビリビリこないし、のどがしまって、せきこまない、かすれない状態です。要は、自分が楽に声を出しやすい状態です。
体からストレートに声が出ていないと感じても、焦らずに時間をかけて少しずつ、その感覚をつかんでいきましょう。急にのどが強くなったり、声がコントロールできるようになることはありません。毎日やって、焦らず待つしかありません。
◯「ハイ」と「ララ」
私のトレーニングメニュの材料の一つに、「ハイ、ララ」というのがありますが、これは、「ハイ」で日本語では難しい「イ」を深いポジションの「イ」で克服したいということと、「ハイ、ララ」という一つの呼吸、フレーズの最小単位を、きちんとつかむのが目的です。☆
日本語の「ラ」は、難しく、浅くなりがちなので、のど声にならないように「ハイ」と深く入れておいて、その線上にのせていく感覚を身につけるとよいと思います。
もちろん、この「ハイ、ララ」は、一つの材料として出しているものですから、このメニュによって、自分ののどの調子が悪くなるようなら、使わないことです。
課題は、自分でつくって、自分で使って試してください。声が出やすいと思った課題やメニュを、1時間でも2時間でも徹底してこだわって、トレーニングしていけばよいのです。トレーニングをしながら、自分の出している声に敏感に反応し、その変化を判断していってください。
小さな声でのどを開けるトレーニングで、声の調整はできます。しかし、それだけでは体まで変えていくには、とても時間がかかります。体と結びつけにくいのです。
体ができていないうちに、急に大きな声を出そうとすると、その負担がのどにきてしまいますが、それを少しも、のどにかけずにできるようにしていくのがヴォイストレーニングです。トレーニングのなかで徐々に器を大きくしていくようにしてください。
のど声になりにくいストレートに声が出せる音域で、徹底的に行い、確かな感覚をつかむことです。次の半音高い音ができないのは、その前の音の時点で安定していないということです。その音と音の間のプロセスを一つひとつチェックしながら、トレーニングしていってください。
一つの音を確実にとり、それを隣の音(次の音)につなげるのが、ヴォイストレーニングの基本です。
自分のめざしている声のイメージをよく浮かべて、声を出したときにチェックすることです。
出されている声が不快ではないか、息と一致しているか、体はどうか、表現は宿っていきそうか、音楽的か、など自分の判断基準を厳しくしていくのが、狙いです。☆
そのような指針でトレーニングしてください。自分が正しいと思うこと、できることをやっていけばよいのです。
他の人から言われたことばに惑わされないことです。ことばの世界にとらわれないことです。ことばは、体の感覚をつかみやすいように、イメージを伝えようとしている道具にしかすぎません。
判断すべきこと、信じるべきは、体の状態を体という楽器を呼吸というタイミングでキープできれば、何の問題もないのです。
ここが提供している材料やアプローチのすべてが、あなたに当てはまるとは限らないのです。そのなかから、自分に必要なものだけを組み込み、組み立て展開していく力をつけていくのです。そして、自分だけのノウハウをつくることです。
人の10倍やれば、人の2、3倍は間違えるかもしれませんが、人の2倍の実力はつく、そういうスタンスです。やりすぎたら解決していく、そういう気持ちでやってください。
あなたは、ここにヴォイストレーニングをやりにきて、免状をとりたいわけではないはずです。歌を、あるいは表現するに耐えうる声を身につけるためにきているはずです。
そのことを忘れないでください。
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課題曲レッスン 351212
「すてきな こいびと あなたのひとみには」
(ミレドシラ ソミミミ ミレドシラファファファファ)
大切なのは、声の技術できちんと声をつかんで出すことと、出した声と感情表現の一致です。両方、同時にやっていくのが理想ですが、できない場合は、とりあえず声の技術を固めてからにします。
できるだけ、大きくつくっていきます。最初は、ことばで伝えるということと声を同じポジショニングで粘ることを一致させるのです。歌になったときには、日本語の場合は、深いポジションでとってから、離して弱めていきます。弱めて体を使うのは、難しいことです。
外国語だと「ひとみ」の「と」に体を入れてヴォリューム感を出すことができますが、日本語で伝えようとすると、そういうイメージにはできないのです。
しかし、トレーニングでは、常に、どこで踏み込んでいくかを考えてください。
この曲は、同じポジショニングで歌っている見本の一つでず。1オクターブありますが、深い声なので、最高音でも高く聞こえません。
このくらい体があると、1オクターブをこういうスタンスでやっていけますが、体のない人にはきついです。
ポジショ二ングを考えずにできるようになる、その感覚をつかむのには、よい曲だと感います。
ことばや間合いというものがありますので、そこに体を使って、息、呼吸を合わせていきます。また構成をことばからも考えてみてください。メロディ処理です。
日本語は、ことば、メ日デイ、リズ厶が合わないものが大変、多いですが、その合わないものを合うようにトレーニングして歌えたら、外国の曲などは簡単にこなせるようになるでしょう。
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レッスン録 Q&A
Q:最近、話をしているときに、とっさにことばが出るときや驚いたときや、何か自分の考えを伝えようとしたときに、舌がまわらなくなるときがあるのですが、トレーニングの影響でしょうか。
ことばの練習を大きな声でするときに、なるべく口先を動かさず胸元で出そうと意識しているのですが、そのことと関連しているのでしょうか。
力の入りすぎ、のどの負担による疲労でしょう。
トレーニングでのふしぜんさを日常生活では、引きずらずに、しぜんに戻すことです。
発声に専念するのに、発音が一時、犠牲になることは、よくあることです。ただ、日常生活で悪影響が出るなら、やりすぎ、急ぎすぎ、無理のしすぎです。ペースを上げないように、練習のなかでも休みを充分とりましょう。
Q、声に厚みがない。大きな声を出そうと意識すると、声が高い音を出す準備をしてしまう。その状態で大声を出そうとすると、のどがしまる。出された声が汚く感じるのです。
最初に声の厚みがでないのは、仕方のないことです。
声の芯から線をつくって厚くするというイメージをもってトレーニングしていきます。
声の芯の捉え方として、一つはことばから「ハイ」と深いところと頭のひびきを結ぶ縱で捉える、もう一つは「ラー」という線から細く出して、少しずつ太く、体を巻き込んでいくアプローチがあります。
どちらか、やりやすい方でかまいません。いずれ、両方を一致させていきましょう。
大きい声イコール高い声というイメージは、話声域というところからいうと、理にかなっているので、感覚的には、そのように考えてもよいです。
しかし、高くすることで、のどがしまってしまうなら、問題です。
本来、高い声で強く出さないように、話声域やさらに低音を使っているのです。
強く出すときに高くしないようにする必要があります。準傭をしないと、大声を出そうとすると、のどがしまるし、ガサガサした声になり、危険です。
Q 発声のトレーニングをしていると、のどが、渇くような感覚になる。
のどが渇くということについては、体質にもよると思いますが、息を吐くという行為は、口の中が渇くのです。
渇きすぎると、無理に声を出そうとすると、声帯や口の中が切れたり、血が出たりして、よくありません。
対処法としては、吸水か、間をあけてトレーニングすることでしょう。のどの潤うのを待つのです。
のどが渇くというのは、発声が悪いというよりは、無駄な息を送りすぎるからです。
きちんと間隔をあけない、続けすぎる、長時間のやりすぎ、大声の出し過ぎなど。
歌を歌っているときは、のどが渇いたり咳き込んだりしても歌をとめてしまうことはできないので、その間、コントロールして、もたせなければなりません。ある程度はトレーニングですが、よい状態にすることに越したことはありません。
Q「サ行」で息もれする感じになる。
発音、ことば上の問題と、歯並び、あごの形など発声上の問題とがあります。
気息音「s」なら、多少の息もれは構わないと考えてください。
特に、日本語の場合は、母音で終止するために息もれが目立ちやすいのです。
子音でとめられる言語では、問題ないでしょう。
あとは、声のポジショ二ングで力バーしていくのです。
Q 高音に向かうにつれ、お腹で支えられなくなる。胸にも保てない。
低音になると声のヴォリュームが下がる。
低音になるにつれ、声が大きくなっていく人は、いないでしょう。この問題については、後々、残ってしまう場合がありますが、ポジショ二ングでカバーしていくことでしょう。
のど声にせず、発声の邪魔をしないで巻き込んでいきましょう。
のど声にすると、声が大きく聞こえるような気がしますが、マイクには入りづらいし、使いにくいのです。
低音にいくにつれ、声は小さくなるものです。低音になって歌がもりあがることもないです。
だから、きちんとコントロールすることが問われます。
高音は、無理せず時間をかけましょう。今は強くしすぎないことです。
胸で保つのは、限度もあります。頭部の共鳴との兼ね合いを学びましょう。
Q 声を出していると、体に力が入って力んでしまう。
胸にポジションをとったまま、音を上下に移動できない。
力まないように、リラックスしていきましょう。
ポジションは、あまり固定して考えなくてもよいです。
その日の調子によっても、ずいぶん違うという程度に考えましょう。
あまり決めつけずに、出ている声の感覚から判断してください。
これらは、トレーニングで、あたりまえのように出てくる疑問であり、
ことばでは再々、説明しています。
特に1、2クラスの人をみていると、説明されたことばに踊らされているように思います。
ここでの2年間は、説明されたことばを覚えるためでなく、自分はこうだという判断基準とそれへの確信をつかむための期間です。
ことばは、無力で、それにとらわれすぎると害にもなります。
ことばでは、本当のところは、伝わりません。
できたときに、ことばの意味がわかるものなのです。☆
イメージで直すしかないのですが、簡単にイメージを共有することはできません。
自分はどう思うのか、正しいと思うのか、
将来的に発展していきそうな声なのか、
出している声が自分にとってどうなのか、そこが肝心なのです。
自分で感じ、気づいたことしかノウハウにはなりません。
私やトレーナーが話をするのは、材料にしかすぎないのです。
話にひっぱられて、自分が思ったことと違うからと、そこで迷わないことです。
もし、自分が信じたことが間違っていたとしても、いきつくところまでいきついた方が、自分の身となり血となるものです。
自分の限界-ここまでやると壊れるなどということさえ、
この時期、その手前で知っておいた方がよいです。
一見、無駄だと思えることから学んでいることの方が多いものです。
Q 声区の変わり目について知りたい。
どの部分でとるかということは、難しい問題です。
最初はあまり考えてこだわらない方がよいと思います。
息を吐いていたら、声が深くとれるようになるかもしれない。
その声では、また違ってきます。
早く仕上げよう、高いピッチをとりにいこうとせずに、地道にやっていくことです。
声区のチェンジを考えないで、歌で覚える方が、実践的に身につくことが多いです。
Q 歌詞がつくと、声を出すときに声が変化してしまう。
日本語の発音の場合、ポジションが浅くなってしまうのが普通です。
イメージについては、日本語の方にひきずられていって、深くとりづらくなるので、イタリア語でトレーニングして、日本語におきかえるのがお勧めです。
Q 胸声のまま、高音を出すことについて、どこまで行うのですか。
基本的には、胸声発声というのは、違います。
ベルディングとして、そのまま高音へもっていける場合もありますが、
人によります。歌唱スタイルにもよるのです。
頭声や裏声、ファルセットとのチェンジは、個別に異なります。
のど声を避けようとすると、頭の方へしぜんと移っていくのがしぜんです。
ポジションをどこにとるのかという問題です。
トレーニングでは、低いところも高いところでも、できるだけ厚くとる。
その上でバランスを考えるのです。
薄くするのは、簡単なので、この両方の兼ね合いでとっていくのが理想です。