一流になるための真のヴォイストレーニング

福島英とブレスヴォイストレーニング研究所のレッスンアンソロジー

アーティストなら幅と力を 171

アーティストなら幅と力を

 

最近の音楽をやっている人のなかに、自分のワクに閉じこもって自己満足、

かつ自家中毒になっている人をみかける。

音楽をやりたいのだが、忙しい、時間がない、仕事に追われてできない…

こんなことを言う人はきっと死ぬまで何もできないに違いない。

いったい世の中で認められるまでに歌だけができる環境で

時間を目一杯かけて、それをつくり上げてきた人がどれだけいるのだろうか。

少なくとも私はそんなぜいたくな環境で大成したプロを知らない。

明治維新後、戦後しばらくまでは、西欧に行く援助のできる親は限られていたし、

持ち帰るだけで名をなせた人もいただろうが、、。

 

どのアーティストも仕事や勉強のなかで、雑務に追われる日々のなかで、

ためたものを一気に短い時間を惜しんでつくりあげてきたのだ。

生活のなかの限られた時間で、それを完全燃焼させて、

プロレベルの作品をつくれなくては、そのくらいのパワーがなくては、

プロとしてやっていく資格はない。

 

無駄と思われる雑務の日常なかで私たちは、人間に接する。

そこで人間を知り、理解し、何かを創り出せる。

 

なのに、何が音楽だ、何が時間がないだ。

一人よがりにがんばっているつもりの人には、いったい誰に歌いたいのかと問いたい。

自分を待っている人がいるであろうに出ていこうとしない人をアーティストと呼べるだろうか。

その人は音楽に専念してプロを目指しているつもりでも、

大きなもの、人間という相手とそれを超えたもの、

アーティストにとって最も大切なものを見失っている。

そのことに気がつかない。

 

「私は音楽で歌で身を立てたい」と思うのは勝手だか、

ヴォーカリスト、アーティストというのは、人に伝える仕事であろう。

音楽の才能、声の力だけではない。

人とまみえてこそ、人間であることを忘れるな。

本当にアーティストとしてやっていくのなら。