一流になるための真のヴォイストレーニング

福島英とブレスヴォイストレーニング研究所のレッスンアンソロジー

イベント 観劇 プレトレ 13098字 1139

イベント  1139

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特別企画  観劇とその後、主役との懇談

【体力・声量がない人のためのプレ・ブレスヴォイストレーニング】

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特別企画  観劇とその後、主役との懇談

 

話 

研究所に入る前にも、歌を習っていました。毎日何時間も練習していましたが、一日に練習できる時間がだんだん短くなっていきました。つまり、声の出せる時間が短くなっていったのです。そこで、声の出し方を別に勉強する必要を感じ、研究所に入りました。

歌は、どんな曲を歌っても同じようなパターンの歌い方になってしまい、このままではいけないと感じていました。研究所には約3年通いましたが、その間は、同じポジションで声を出すトレーニングばかりやっていました。そのころ秘書をしていましたが、昼休みに屋上で、「ハイ、ラララ」とか「外郎売り」を同じポジションでいう練習を毎日やっていました。 

 

昼間働いたお金をレッスンに全部つぎ込むという二重の生活に疲れ、何とか一本化できないかと思っていました。劇団に入った理由は、はじめから給料をもらえるということもありました。もちろん、それだけでなく、舞台を見てよかったからですが。

ミュージカルは劇団四季も観ました。舞台を見終わったときは、「なるほど、そうか」という感じなのですが、「裸になったサラリーマン」を観たときは「明日もう一度観てもいいな、知りあいにも勧めたいな」と思い、この劇団に入ろうと決めました。

 

 

〇劇団に入ってからの生活

 

 生活を一本化してやりたいことに専念できると思ったのは甘かったです。劇団には専門スタッフはほとんどいないため、役者もスタッフも兼ねています。特に入ってから数年はペーペーですから、先輩の指示に従ってスタッフとしてハードに働きます。地方に旅まわりに出るときは、40人乗りのバス1台とトラック3台で移動し、会場に着いたら、機材や道具類をセットします。この「仕込み」をいかに手際よく短時間でやるのも仕事のうちです。時間がかかりすぎたりすると、その日の深夜に「仕込みい議」なるものが開かれることもあります。そして次の日はまた、朝早く次の目的地へ出発といった具合です。セットを片付けトラックに積み込むという作業も毎度ですから要領のよさは引越し業者以上になったでしょう。 

 

スタッフとしての仕事は入って2年間ぐらいが特に大変でした。たとえば、ある先輩から、「この小道具はここに置け」といわれ、別の先輩から「そこではなくあっちに置け」といわれる。移動したら、はじめに指示した先輩がやってきて、「ここに置けといっただろう」と殴られる。また、幕間に机を移動する係になり、机の移動の練習をさせられた。そのとき、いきなり走ってきてぶつかり、「避けられないのは、集中していない証拠だ」と怒鳴られる。そんなとき、「私はこんなことがやりたくて入ったのではないのに」と悔しい思いましたが、お金がもらえるというのはこういうことなんだ、と後からわかりました。 

 

一つの劇をやるのに、大道具の作成などを2ヵ月ほどかけて東京の稽古場で行い、その後は旅に出てあまり家に戻りません。全国を効率よく回るのではなく、劇場がとれた順番にまわります。旅の間は相部屋だし、東京にいるときも稽古場の近くのアパート暮らしなので、銭湯で団員に声をかけられたりします。生活に踏み込まれるのが嫌で意識的にシャットアウトし、2年間ぐらいは挨拶以上のことを誰とも話しませんでした。胃が痛くなり病院によく行っていましたから、全国の病院の診察券を持っています。今でも団員のなかには、私がこんなに他人と話せることを知らない人もいます。

 

 

〇劇団に入って学んだこと

 

 研究所でライブや検定に出ていたときと今との一番の違いはお金を払っているか、もらっているかということです。以前は体調が悪いと言い訳もできましたが、今は体調が悪かろうとステージでやらなくてはなりません。過去に大阪での公演で風邪をひき声が出なくなってしまったとき、2日間だけワイヤレスマイクをつけてステージに立ちました。そのとき、これではいけないと痛感しました。 

 

自分も以前そうだったのでわかるし、今も会報を読んで感じるのですが、視野が狭くなっている人が多いと思います。一つのことを突き詰めてやるのも大事だし、稽古に時間をかけられることは恵まれているのですが、視野が狭いままで自分の殻を破れなくなるのは怖いことです。

劇団に入って「破けて」いる人が多いのを感じたし、破けるのは切羽詰ったからです。切羽詰まらないのは観客が見えていないということです。

 

研究所内のステージで同じメンバーの前でやっているのでわかりにくいというなら、ステージ実習やライブ実習でやっていることを街頭でやってみることです。足を止められるか、聞いてもらえるか、伝えられるか。それは1対1の格闘技のようなものです。自分に隙があったら負けてしまいます。自分の出せるものを120パーセント出さなければ通じません。研究所では特に、自分を壊すことや、ステージと稽古を結びつけていくことを自分自身で管理していくことが大切だと思います。 

 

劇団では演出家のいうことは絶対ですから、自分のやりたいこととは違うことを求められることが多くあります。それが嫌でやめていく人もいますが、「私にはこれはできません」というのは芸人ではありません。自分のやりたいことや、核の部分は大事なのですが、まずは自分に求められていることを理解しようと努力することが必要です。

 

理解力はとても大切です。与えられた役、セリフ、歌、振りつけ、演出家の意図、それらを充分に理解しようと努め、そのうえで自分のやりたいこと、核の部分との接点を見出すことが必要なのです。 

ここの演出家のすごいところは、役者がセリフをいうとき、自分も一緒になって体の内部でセリフを読みこんでいて、生理的に反すると感じたら、「違う」と叫ぶ。その感覚的な判断力というのは大事です。自分も他の役者の稽古を見ているとき体で読みこんでいるうちに判断力がついてきたように思います。 

 

 

 

〇研究生からの質問

 

Q.私はセリフをいうときに自然にいおうとしているのですが、研究所では大げさにいう人も多くいます。いわゆる役者っぽいセリフのいい方は、必要なのですか。

 

A.型にはまったような役者っぽいセリフのいい方というのは間違っていると思います。しかし、自然にいおうとするのも初期のトレーニングとしてはよいとはいえません。自然というのが、今の自分の見えている枠のなかでの自然であるから、これから枠を広げようというときにはその枠を超える努力も必要です。以前、はじめはカンツォーネから勉強することをすすめられました。シャンソンで語るように歌うのをはじめから意識してしまうと四畳半の狭い世界から出られなくなる危険がある。だから、スケールの大きなカンツォーネで張って歌うことをやってみたほうがよいという理由です。

大きく張って声を出せればその対極にある自然な出し方もできるので、そのぶん表現の幅が広がります。表現するなら枠のなかでの自然をめざすより、枠を壊し、破れて飛び散ってしまってから、どう拾い集めていくかというように考えたほうがよいと思います。 

観客には、セリフ自体の意味よりも、その役者から発される「気」のようなものと、それが現れた声のトーンにより伝わる要素が大きいのです。ですからセリフをいう以前に自分の内部で回っているものが大事です。

 

 

Q.踊りながら歌ったりセリフを行っても息切れしていませんか。きつくありませんか。

 

A.きついです。自分が踊るようになるとは以前は思っていませんでしたし、他の団員も違う職業から役者に転向した人が多くて、踊りの技術はあまりありません。その分、テンションや元気さでカバーしています。体を動かしながらでも声をしっかり出すために、自分自身で行ってきたバレエのバーレッスンのときに吐く息を全部声に変える訓練などをやっています。

 

 

Q.自分でこうやりたいというものが内部にあるのですが、表現するときにこれでよいのかなと悩むことがあるのですが。

 

A.悩むときは徹底して悩んだほうがよいです。自分に何が欠けているか、変えるために何をすべきかを具体的にとことん考え、自分の痛いところに手を入れ、内臓を引きずりだし、叫び、わめき、苦しむのです。表現するということは痛みを伴います。自分を壊すことは自分しかできません。人から教えられることではありません。先生というのは教えてくれる人ではなく、たとえば寺で座禅を組んでいるときに後ろから竹刀で喝を入れる人ぐらいに考えたほうがよいでしょう。

 

 

Q.徹底して悩めといわれましたが、注意されたことに対して落ち込むというのは悩むのとは別でしょうか。

 

A.人からいわれたことに落ち込んだり喜んだりするのは受身の生徒でしかなく、ステージに立つ人ではありません。人が歌う歌に合わせて手拍子を叩く人であり、自分が歌を聞かせる人ではないのだと思います。

 

 

Q.本番で自分の出番の前後にもスタッフとしての仕事があるといっていましたが、心の準備をする暇もないのですか。

 

A.今回は大きな役をやっているのでまわりも気をつかってくれますが、以前は心の準備をする暇などほとんどなく、準備をしてからでないとステージに出られないということでは甘いのだと知りました。どんな状況でも舞台に立った瞬間に演じることに入りこめないといけない。

直前までセットを動かしていて自分の出番に遅れそうになったこともありますが、ステージに立ったら関係なく、ぱっと役に入らないといけない。ちなみに今回の劇でも嵐のシーンで舞台後方の波を動かすスイッチを入れているのは私です。 

また、稽古のときに自信がないところがあっても、本番は全てを断ち切り自信をもって演じきることも必要です。たまに、稽古で怒られていた人が、その後の出番で引きずってしまい、「ああ、あそこのセリフが凹んでいるな」とわかってしまうことがありますが、それでは失格です。

 

 

Q.何ヵ月も同じ役を演じていて飽きることはありませんか。

 

A.昨日と同じことをやってしまうことが一番怖いと感じています。同じ舞台を毎日やるので、同じことをやってしまったら飽きやマンネリにつながります。課題は限りなくあるので、常に昨日の自分を壊し新しいものを吸収し続けるようにしています。

はじめのうちは「壊す」ということが大変でした。自分がやってきたことを壊すのは怖いと感じますが、全部壊しても本当に身についたことだけは無意識のうちに残っています。ですから、怖れずに昨日までの自分を全部捨て、新しいことを吸収し、無意識でできることを大きくしていくことです。個性や持ち味も、常に自分を壊してやっていることに対し観客が感じとるものであり、本人が意図してやっているようなものはすぐにわかるし、鼻につきます。

 

 

Q.自分のステージについてどうだったかが自分ではよくわからないことがあります。

 

A.自分のできがどうだったかわかりにくいのは、研究所の外に出ても同じです。私も、自分で気持ちが乗ったときに分かりにくかったといわれたり、今日は冷めていたなと思うときによかったと誉められたりします。まわりからはいろんな人にいろんなことをいわれます。人からいわれたことをいちいち全部受け止めていたらきりがありませんので気にしないようにしています。

 

 

〇研究生へのメッセージ

 

大きな役をもらったから以前より楽しいというわけでは全然ありません。大きな役ほどまわりから意見をいわれて大変です。それでも続けているのは自分のやりがいのためだけです。

研究所には忙しくて通えなくなり、今は会報を読んでいるだけの関わりですが、話したいことがたくさんありました。今日は観にきてくださりありがとうございました。皆さんもがんばってください。

 

 

 

 

〈福島コメント〉 

 

当日は、私も一緒にお茶をする予定でしたが、急な予定が入り、申し訳ありませんでしたが、私のいない方が、たくさん話せてよかったのではと思っています。 

1ヵ月ほど前に1年ぶりくらいに彼女と会いましたが、ここ3年で下働きを積み、随分、自信をもったようでした。この劇団とは、もう10年来のつきあいで、プロデューサーから数十名の招待をいただいた縁で、今回、企画しました。 

 

こういう話からもあたりまえのことをあたりまえにやれば、あたりまえのようにやっていけることを知ってください。ただ、彼女はいつ見ても全力を尽くしていました。合宿の三日間のうち、一日だけの参加で軽井沢まできたことを覚えています。そこまで何かをものにしようとして参加し、舞台を演じていました。

どこでも、やりたいことをやるためには、やらなくてはいけないことをしっかりとやることが前提なのです。やりたいことばかり求め、いやなことから逃げていては、いつまでもどこでもやっていけません。まず、ここに足跡をしっかり残してください。

 

 

 

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特別投稿

 

【体力・声量がない人のためのプレ・ブレスヴォイストレーニング】

 

<はじめに>

 

 私が研究所に入り、トレーニングをはじめてから、4年がたちました。声にも歌にもまだまだ課題はありますが、入会当初の目的の一つだった、半オクターブの声を統一することが、ようやくできてきました。入会時は2年を目標としていましたからおよそ倍かかりました。その間、声以外のことも学んできましたしたが、当初の目標がなかなか達成できず、あせりもありました。 

時間がかかった原因は複数あると思いますが、その一つに体力不足がありました。日本人女性は男性に比べて胸声がつかみにくく、声をつくってきているので半年ぐらいのハンデがあるようですが、私の場合、さらに体力や声量でハンデがあったようです。

 

当初のレッスン内容は、標準以上の体力や声量のある人のための声・息の強化メニューでトレーニングの土台に乗れないこともありました。 

また、入所と就職が同時期で、共に数多く場に出ることを優先させていたので、自分ひとりでの練習や体力づくりの時間をつくるには、疲労や眠気との闘いとなりました。それでも、昼休みに練習したり、休日に走ったりし、自分なりに試行錯誤し、少しずつですが問題を解決してきました。 

 

そこで、体力面や声量で自信がなくトレーニングを始めるのに不安を感じている人や、ある程度トレーニングを続けたが効果があまりなく、体力面に問題を感じている人にとって、ヒントになることもあるかもしれないので、私の試行錯誤のなかで役に立ったこと等をまとめてみることにしました。

 

 

1. 声量のない人のトレーニングの注意点

 

(1) まず、しっかりした声を出す

 

 声量がないとひとくちにいっても、その程度や原因は人によって異なります。発声方法が悪い場合は、体・息・声を結びつけ、のど声をやめていくことで声のヴォリュームもついてきます。しかし、普段の話し声が人より小さくて弱々しい声の人は、まず、しっかりした声でことばをいえるようにしていくことが必要です。 

なぜなら、しっかり声が出ないのに体や息を深く強くしていこうとしても空まわりしてしまうからです。私が入会したころは、体・息の強化メニューがレッスンでは多かったのですが、半年経ったときにトレーナーから、「靴を履かずに走ってしまったようなものだ。」といわれました。自分でそのことに気づくべきでした。

 

体や息はできているのかチェックしにくいので、曖昧になりやすいのです。まずはしっかりした声を出し、その声に対して息や体を結びつけていくことにより、自分にできることや課題を見えやすくしておくことが大切です。 

しっかりした声が出ない原因は大きく分けて三つあると思います。一つは心理的な原因です。気持ちに余裕をもち、自信をもって話すようにするだけでも変わってきます。 

 

二つめは声をしっかり出す経験の不足です。人前ではっきりと話したり、スポーツでかけ声を出すような経験が少なかった人は、大きな声を出すことに慣れていないため、力んでしまい、のどが締まる癖がつきやすいようです。少し離れた人にことばを投げかけるつもりでしっかりした声を使うような練習を取り入れるとよいと思います。 

 

 

三つめは、体格や体力との関係です。痩せているより太ったほうが声は安定しやすいようですが、無理に太ろうとするより、今ある体を効率よく使えるようにするほうが大切です。また、同じ体重でも筋肉が多い人と脂肪が多い人では体力面で差がでてきますので、体重にこだわりすぎず、健康であることを総合的に考えるようにしましょう。 

 

体力に関しては、体力があるイコール声が出るというわけではありませんが、体力がないと疲れやすいので集中力や発声に関わる器官にも影響が出るし、疲労が回復しにくいと毎日のトレーニングにも支障が出ます。ですから、人並み以上の基礎体力は必要です。また、特別な筋肉の強化は必要ないと思いますが、姿勢を保つ筋肉(脚力、腹筋、背筋など)が弱いと、姿勢が悪くなり、呼吸や発声にもよくありません。 

 

声の弱々しい人は、自分の原因は何かを考えてみましょう。そして、日常で声を出すときに自分の心や体や呼吸はどうなっているのか意識するようにしましょう。また、体力に問題がありそうだという人は、体力アップのトレーニングを取り入れましょう。

 

 

(2) 声量を他人と比べない

 

 声量がない人でも自分なりのある程度しっかりした声をみつけたら、体や息に結びつけていくことが必要ですし、音声の感覚を学んでいくことも必要ですから、グループレッスンにも積極的に参加するべきです。しかし、グループレッスンは主体的に参加しつつ、よい面を利用するようにしましょう。 

 

たとえば、声量を他の人と比べてしまいがちです。レッスン中にも比べる必要のないことは注意があるのですが、やはり気になります。隣に声量のある人がいて自分の声がかき消されてしまうと、その声に負けまいと力みますが、体が違うので結局のどに負担がきてしまいます。

また、声量だけを目標にしたり、声量がないことにコンプレックスをもってしまうと、自分にとっての今の課題が何かわからなくなってしまいます。くれぐれも、自分の声や体の状態を知り、自分のペースでやるように心がけましょう。 

 

自分の課題がわからなくなったときは、要注意です。できないことも、できるイメージで続けるうちにできるようになることがありますが、自分のレベルに合わないことをやると体で実感できないので、できないイメージ、(息が吐けない、声を出すのが苦しい)が固定してしまう怖れもあります。そうすると歌うのも苦しくなり、自信もつきません。 

 

ですから、レッスンは自分のレベルとの接点をつけて、息吐きは自分が吐ける長さ、回数で、声は出しやすい音域では、しっかりやり、できないところは休んでもよいと割り切ることも必要です。ただし、できることだけやっていてもマンネリ化して感覚が鈍くなりますので、ぎりぎりできることを確実にしたり、正しく繰り返すことに集中力を傾けるようにします。

 

 

(3)トレーニングの前にウォーミングアップを行う

 

 低血圧の人が運動をする際の注意点に、ウォーミングアップを普通の人より長めに行うことがあります。運動をするのに必要な酸素を心臓が全身に送り出す準備が整い、体が適度にあたたまるまでに、普通の人より時間がかかるためです。 

 

声のトレーニングにも発声器官をあたため、心身の調子を整えるウォーミングアップが必要ですが、声量のない人や体力のない人は、話し声がよく通る人と比べると発声器官の準備に時間がかかる場合が多いので、発声に適した状態に体を準備するのに時間をかけてていねいに行う必要があると思います。一例として次のようなことがあげられます。

 

① 体をあたためる:早足で歩くなど、軽い有酸素運動を5~10分以上(軽く汗ばむ程度)行う。

② 体をほぐし、呼吸を整える:息を吐きながらストレッチを行い、体の関節を柔らかくし体と気持ちをリラックスさせる。深呼吸や息吐きのトレーニングを行う。

③声の調子を整える:ハミングや、出しやすい音域でていねいに声を出していき、声帯があたたまるのを待つ。

 ④集中力と気持ちを高める:言葉のトレーニング、リズムトレーニング、イメージトレーニングなど、体・気持ちが動いてくることから入る。 

 

①、②は運動をするときと共通のもの、③、④は声のトレーニングとして必要なものです。順番や内容は人によってある程度違ってくるでしょうが、声帯への負担を軽くしたり、トレーニングの効果を高めるためにウォーミングアップは大切ですので自分に合った方法で行うようにしましょう。

 

 

(4)トレーニング後はクールダウンを行い、のどを休ませる

 

 体力や声量のない人ほど、トレーニングのときには体も心も緊張しがちです。トレーニングの後は、呼吸を整え、息を吐きながらストレッチを行い緊張をほぐしましょう。また、のどに疲れが出ないようにトレーニングすることが大切ですが、慣れないうちはのどに負担がかかりやすいので声帯も充分休ませるようにします。

 

話し声に気をつける、充分な睡眠をとる、のどを冷やさないなどケアを心がけ、次のトレーニングのときまでに疲れを残さないようにしましょう。

睡眠不足でも、お酒を飲んでも、声にダメージを受けにくい人もいますが、そのような強さを人と比べても意味のないことです。自分はどうなのかを知り、人に惑わされずに自己管理すればよいだけです。

 

 

 

2.体力のない人のプレ・ブレスヴォイストレーニン

 

(1)体力づくりとブレスヴォイストレーニングの関係を理解する

 

 声がしっかりと出ないことに体力的な原因を感じたり、疲れやすく声のトレーニングに集中できないことがあると感じる人は、プレ・ブレスヴォイストレーニングとして体力アップのための運動を取り入れることをお勧めします。ただし、運動で汗をかいたことでトレーニングした気分になり満足し、トレーニングに結びつけられなかったら本末転倒です。そうならないように、二つのトレーニングの関係を理解しておきましょう。 

 

ブレスヴォイストレーニングをしてもすぐに歌がうまくなるわけではありません。しかし、深い息や、コントロールできる声があったほうが歌うときに有利だし、一流の歌い手が条件としてもっていることを初めに入れておくほうが後で伸びるという理由で行うべきです。そのことを理解してトレーニングをしないと歌に結びつけられないままトレーニングの方向を見失うこともありえます。 

 

体力アップのためのトレーニングと声の関係は、歌とブレスヴォイストレーニングの関係と似ています。体力をつけても声がよくなるわけではありませんが、声のよい人は人並み以上の体力を条件としてもっているなら、その条件を整えていこうということです。 

 

 

以前、「走ったとしても、トレーニングと結びつけられず、走るだけで終わってしまいがちだ。」といった人がいましたが、それはある意味では事実です。走ったり、ウエイト・トレーニングをすることにより鍛えられる筋肉や体の使い方は、声を出すための筋肉や体の使い方とは直接には結びつきません。 

しかし、歌は体が楽器です。スポーツのように特定の筋力を鍛える必要はありませんが、長時間立って声を出し続けることに耐えられるだけの基礎体力、姿勢を保つための筋力、瞬時に呼吸と声をコントロールする反射神経、余計な力を抜き体をコントロールするための柔軟性など、総合的な運動能力が関係してきます。 

 

これらの能力は息や声のトレーニングのなかでも鍛えられますが、より集中力や気力の問われるトレーニングのときに、体が弱く疲れやすい、姿勢が崩れやすい、体のリラックスやコントロールの感覚が鈍いということは不利な条件となります。 

ですから、体力に自信のない人や、スポーツに馴染みのない人は、ブレスヴォイストレーニングの準備トレーニングと考え、適度な運動を生活に取り入れることをお勧めします。 

 

 

ただし、声のトレーニングをまったく行わないで運動だけをしても意味がありませんから、平行して行います。その比重は、個人の状態に合わせて違ってきますが、できれば毎日、最低でも週2~3回は行わなければ効果はありません。1回のトレーニングで欲張り過ぎず、継続して続けられる量・強度から始めます。 

たとえば、《声・息のトレーニングは毎日30分。レッスンを週3日、レッスンのない日に、運動(有酸素運動を中心に1時間程度)を週3回》など。2週間続けて余裕があるようなら回数や時間を増やしてもよいでしょう。同じ回数や時間でもより正しいフォームでしっかり行うとトレーニングの強度が増しますので、とにかく続けることが力になります。 

 

 

運動を続けることは、体力の向上だけでなく次のような効果も期待できます。

 

体に関する意識の向上:普段から運動を習慣にすることにより、自分の体の状態に対する意識が高まり、食事・休養・

生活習慣を含めた生活全体を見なおし、体の調子を整えることができるようになります。このことは、声のトレーニングをするにもよい条件になります。

 

レーニング原理の応用:計画的な運動を続けるなかで、体の原理にかなった効率のよいトレーニングの方法を身につけることができます。ウォーミングアップ・クールグダウンの重要性や、自分の体の状態にあった適度な負担で一定時間続ける効果、毎日続ける効果や、けがを防いだり疲れを和らげるストレッチの効果など、声のトレーニングにも応用できることがたくさんあります。

 

 

(2)運動をはじめる前に自分の体を知る

 

 自分の体のことはわかっているようで、意外にわかっていないのです。体力アップのための運動をはじめる前に、自分の健康状態・体力のレベルを知り、無理のない、かつ効果のあるメニューを考える必要があります。学生のうちなら部活動できつい練習に参加しているだけで体力はつきますが、二十歳を過ぎて始める場合は、時間的にも体力的にも制約がある分、頭を使い効率的にトレーニングを組み立てるべきです。 

 

自分の体を知る手がかりのひとつとなるのが健康診断です。特に病気がなくても血圧が低めであるとか、痩せているがコレステロール値は高めであるとか、参考となることは頭に入れておきましょう。病気がある場合は必ず医師に相談し、治療と平行して運動をしてよいかどうか、運動する際の注意点等を確かめる必要があります。 

 

次に運動能力を測ります。スポーツ施設などで運動能力のテストを受ければ、客観的に判断できますが、自分でもある程度チェックできます。

 

たとえば、

□ 疲れやすい。電車で空席を探してしまう。息切れしやすい。→基礎体力の不足→有酸素運動で心肺機能等を鍛える。

□ 姿勢が悪い。腕立て伏せが10回できない。→筋力の不足→腹筋運動・腕立て伏せ等で筋力を鍛える。

□ 前屈で床に手がつかない。90度以上開脚できない。→柔軟性の不足→ストレッチにより関節の可動域を広げる。 

 

特に改善したい点があれば、それを考慮してトレーニングメニューを組みましょう。有酸素運動を中心に筋力トレーニングと柔軟運動を組み合わせるのが基本ですが、体が硬い人は柔軟に時間をかけるなど目標に合わせて配分を考えましょう。

 

 

 

(3)体力づくりの計画立てと動機づけ

 

 体力不足を感じて運動をする場合には単に運動すればよいというわけでなく、運動のやり方や、食事、休息も含めて管理し、計画的に行うことが大切です。無理をして体調を崩し、続かないというのが一番よくありません。適度な質と量を定期的に行うことが大事です。たとえば1週間に1回だけ2時間テニスをするより、週に3回、30分のジョギングを続けるほうが、健康にはよいということです。 

 

しかし、「体力をつける」という目標は漠然としているため、目的意識や達成感が希薄になりやすく、続ける動機づけとしては弱いようです。(歌い手として必要な体力というのもここまであれば充分とか、どこまで体力が衰えると歌えないというような単純なものではありません。)ですから、続けるためには生活の一部になるくらい習慣にしてしまうか、達成感が味わえるような別の目標をつくることが必要だと思います。 

 

私の場合は体力づくりの動機づけとして、半年に1回ショートマラソンに参加しています。完走することが自信や励みにもなりますし、定期的な記録が自分の体力の目安や、次回の目標の参考になります。また、本番に自分より年配の人に抜かされると、生まれつきの運動能力や若さの差ではなく、日ごろどれだけ練習しているかの差を思い知らされます。

(歌は計測できないものだけに日ごろの練習を大切にしなくてはと思います。)

 

練習不足で寒い日に10キロ走り、膝のじん帯を痛めたときは、普段の練習や本番前のウォームアップの大切さを痛感しました。そして、本番では気力だけではどうにもならないとはいえ、同じ条件だったら気力で最後まであきらめない人が勝つのもまた事実だと感じます。

 

 

(4)自己流トレーニングの危険性

 

 体力のない人や運動経験の少ない人ほど、コンプレックスや無知のため無理な計画を立てたり、自己流の間違ったトレーニングでケガをしたり、負担が重すぎたりして続かなくなることがあります。

また、過去にスポーツの経験がある人でも、学生時代の先生や先輩の指導が正しい理論に基づいているとは限りませんし、以前とは目的も異なるかもしれません。運動をはじめるにあたって大事なことは、

①自分にとっての目的を忘れない。

②体力づくりに関する基本の考え方や基礎知識を理解しておく

ということです。

 

①を明確にしたら、次は②を学ぶため、情報収集をしましょう。 

一番安全で確実なのは、体力づくりの専門家に相談し、そのアドバイスのもとに自分に合ったメニューを組み、実践する方法です。そのためにはよいスタッフのいるスポーツジムに通うのがよいでしょう。お金のない人は1回数百円で利用できる都営や市営のスポーツ施設もあるので探してみましょう。 

 

また、ジムに通いにくい人やジムが肌に合わない人は自分でトレーニングする方法もあります。この場合は特に自己流の間違った方法に陥らないよう気をつけましょう。期間を決めて数ヵ月のみジムに通い基本的な考え方を身につけるのも一案です。 

 

また、体力づくりや健康に関する本や雑誌は多く出ていますが、偏った内容や、スポーツ選手向けの特化された内容のものは避けて、健康づくりのための基本的な考え方や、基本的なトレーニングの方法や注意点が具体的に書かれているものを参考にしましょう。 

 

特にストレッチはヴォイストレーニングのときにも役に立つので、写真か図入りでわかりやすく解説してある本を1冊、手元に置いておくことをお勧めします。スポーツの前後のストレッチだけでなく、肩こりや腰痛予防のストレッチもあり、いずれも息を吐きながら20秒~40秒ぐらい、反動をつけずにゆっくりと伸ばすのが基本です。あせらずにやりましょう。

 

 

<終わりに>

 

 弱々しい声で自信がなさそうにレッスンに参加している人を見て、レッスンに来るより、1時間走るほうがトレーニングになるのではないか、と思うことがあります。自分自身のことはわかりにくいものですが、私があの人だったら何をするべきかと考え、自分に置き換えてみると参考になります。 

体力不足を感じている人は意外に多いと思いますが、どこまで必要かはっきりいえるものでもなく、曖昧にしてしまいがちです。しかし、本来はトレーニングや歌やステージを実践する中で自分で不足を感じたら、人にいわれなくてもやるべきものでしょう。ただし、そこまでさかのぼって問題を解決しようという姿勢は大事でとはいえ、さかのぼったことに満足して声や歌に結びつけられなかったら、普通の人の健康づくりと何ら変わらないのです。やるからには努力を一番やりたいことに結びつけるまでやり通す覚悟を持ち、がんばりましょう。

 

参考図書

「健康づくりトラの巻」チャック・ウィルソン著 (近代文芸社

「スポーツトレーニングが変わる本」 (別冊宝島263)

「ストレッチング」猪崎恒博 著 (西東社