一流になるための真のヴォイストレーニング

福島英とブレスヴォイストレーニング研究所のレッスンアンソロジー

参考文献    479

参考文献    479

 

 

世界的に活躍されているオペラ歌手、中丸三千繪さんの記事です。

参考までに、引用させていただきます。

 

 

「発声練習をしていると、湖の上で戯れていた小鳥たちが私のほうに向かって一斉に飛んできたことがありました。

 

日本人というより、日本の環境ですね。たとえば、日本とヨーロッパのホテルを比べてみるとわかります。私は、日本での滞在中は、サービスがもっとも優れているというシティホテルを定宿にしているのですが、それでもヨーロッパのー流ホテルに比ペたら、サービスがまったくなっていませんね。いらいらすることがあります。

ベッドメーキングのタイミングが悪い、パジャマはたたんでいない、タオルには変な臭いがついている。数え上げたら切りがない。要するに、何の道にもプロがいないんです。こんな大人の文化のない社会に芸術家は生きられません。

私は、アーティストはまっとうな人間ではないと思っています。食べたいときに食べ、眠たいときに眠り、人と会いたくなければ会わないし、嫌な仕事はしない。こういう自由な生き方をしているからアーティストなのであって、そんな私たちを生かしておいてもいいと思うなら、杜会の枠にはめて創造力を枯渴させるようなことはしてはいけないと思うのです。

賛沢をさせ、美しいものに触れさせて、快適さを提供しておけば、アーティストは最高の能力を発揮するはずです。そのアーティストの望むことをかなえてあげて、そのことを誰もが当然だと思う社会でしか、私たちは生きられないのです。

すべての基準が平等にあり、効果効率を最大の価値観とし、額に汗して働くことが尊いとする社会に、本来アーティストは必要ないのではないでしょうか。」

 

ーオペラ歌手はその自由な創造性のほかに体力的なものも必要ですよね。

 

「まさしくそうです。オペラの勉強のため往復5時間かけてポーラ先生の住むモデナに通い、夜はミラノでシオミナート先生のレッスンを受けていた時代も、プールで泳ぎ、公園でジョギングすることは毎日欠かしたことはありませんでした。いまでもジョギングはしています。

オペラは、吸い込んだ息を遠くに飛ばす作業なんです。声をより遠くに飛ばすには、横隔膜に空気をたくさん溜めたほうがいい。そのためウエストは、歌いはじめと終わりでは20センチぐらい違いますね。2時間ぐらいで60センチのウエス卜が、80センチを超えてしまいます。蛙みたいでしょう。オペラ歌手は衣装デザイナー泣かせなんですよ。

私たちの肉体的過酷さは、アストリートたちと大した違いはないと思いますね。たとえば、オペラ歌手は入れ歯や差し歯の人が多いんですが、なぜだかわかりますか。

歌うときに、全身のパワーを圧縮して口から空気を吐き出しますから、風圧に最初に接する奥歯はすり減って、前歯は飛んでしまうことがあるんです。ですから大きな劇場には歯医者さんが必ず常駐していますよ。私もお世話になりました。練習中にうっかりソリスト(主役を張れる歌手)の前に立つと、吹き飛ばされそうになることもあります。

私は息を吸って構えた瞬間の、腹筋から指先に至る微妙な反応から、これからどんな声が出るかという予知もできます。私たちの身体は精密機械といってもいい。

歌い終わった後は、筋肉疲労のために全身が火照った感じになるんです。筋肉の一つひとつがストレスを受けて、発熟してしまうのでしょうね。本当にスポーツをやった後の疲労と同じ感覚なんですよ。」